「・・・を科学する」こと

名詞に「する」をつけて動詞として使うのはあまり好きではありません。しかし、数年前に、「サービス」を科学的に捉えようという新たな考え方に共鳴して、大学における産学連携研究会のお世話をしたときには、「サービスを科学すること」と題してキックオフの基調講演をしました。2006年10月13日のことでした。

http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/kyogikai/forum/forum7.html

それから2年余り、産学連携でこのテーマについて共同でサービスイノベーション研究会を開催して、2009年2月23日に報告書とそれに基づく提言書をまとめ、3月9日にはその報告を兼ねてフォーラムを開きました。提言書と報告書は

http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/service-innovation/index.html

にあります。

「・・・を科学する」というのは、私には魅力的な言い回しです。科学的方法を追究するということを、これほどまでに簡潔に表現することばが見あたりませんでした。最初に書いたように、「名詞+『する』」は気持ちが悪いのですが、それにもかかわらず、このことばを使いました。ひょっとしたら、新しい分野の創成といった(私にとって)未知の領域の科学を探ろうという気持ちがあったからかも知れません。

さて、上にあげたURLのページには、提言書を英訳したものも置いてあります。提言の冒頭には、

「われわれは2006年10月から2年半にわたり、産学連携によるサービスイノベーション研究会において「サービスを科学する」視点の確立によるイノベーションに向けた議論を行ってきた。」

というくだりがあります。英語版ではどうでしょうか。

For over two-and-a-half years, commencing October 2006, discussions have been held under the Service Innovation Research Initiative in a collaboration between industry and academia with an eye towards realizing innovation through the establishment of a perspective based on Scientific Study of Services.

となっています。もちろん、全般的に逐語訳ではありませんが、ここでは「科学する」を “Sciencing” とは言っていません。”Sciencing” も聞き慣れない単語で、英語の「・・・する」風の造語でしょうが、Webで検索するとかなり使われていることが分かります。

実は、こういうこともありました。2008年5月21日にシンポジウムISAS2008

http://www.rel.hiroshima-u.ac.jp/isas2008/

で研究会の概要を話すようにと依頼を受け、英語版の説明スライドを作りました。そのときには、2007年10月12日付の提言について述べましたが、そこには、”Sciencing Services” という表題のページがありました。スライドではつねに引用符をつけた単語として “Sciencing” を使っています。

それから10ヶ月後、2009年の提言書を英訳する際には、”Sciencing” についてかなり調べました。ISAS2008は口頭での発表だったからというわけではないのですが、そのときには時間的にも十分に調べることができませんでした。白状しますと、そのときから、本当にこれでよいのか、と気になっていたのです。

いくつか、根拠となることはあるのですが、手元にある控えでは、たとえば、

http://www.science.ca/askascientist/viewquestion.php?qID=3432

にあるように、新語として “Sciencing” が使われたのは幼児教育の場であるということです。現在もその分野ではよく使われているようですが、もちろん、「対象物を科学的に取扱う」という、一般的な使い方も少なくありません。

しかし、「サービス」を対象とする場面で、新しい用語を使って誤解を招くのはよくないと考えました。そこで、2009年の提言書では「サービスを科学すること」を “Scientific Study of Services” としたのです。もっとよいことばがあるかも知れません。

さて、昨日の記事「規制を緩和するということは」の中で、「今日、1件、申込みしました」と書いたのは、「サービスを科学する」と題したフォーラム

http://www.prime-pco.com/ss-jst2010/

のことでした。やはり「・・・を科学する」は魅力的です。

2 replies on “「・・・を科学する」こと”

  1. […] 南谷崇先生の講義では、新たな情報社会への研究の視点の重要性についてお話しがありました。以前に「「・・・を科学する」こと」で触れたサービスイノベーション研究会でもお世話になりました。 […]

  2. […] 南谷崇先生の講義では、新たな情報社会への研究の視点の重要性についてお話しがありました。以前に「「・・・を科学する」こと」で触れたサービスイノベーション研究会でもお世話になりました。「情報社会学」という新たな学問への取り組みは、日本学術会議で取りまとめている「日本の展望」の提言「安全で安心できる持続的な情報社会に向けて」で取り上げた課題解決への一つの道筋が示されたように思いました。 […]

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