情報システムの合理性

「情報システムの合理性」、最近までこのことばには馴染みがありませんでした。しかし、なかなか簡潔で要を得たことばだと思います。

パスポートの電子申請システムが実施されたことがあるということです。しかし、その制度・システムの2005年度利用はなんと103件で、1件あたりの経費が1,600万円程度かかっていたということです。さすがに2006年にはそれが廃止されました。これは極端な例でしょうが、このように、行政において制度を作っても利用度が極端に低いものがあるといわれています。

一昨日から所得税の確定申告が始まりました。私は毎年、この時期に確定申告をしていますが、平成16年分の申告からは国税庁のe-Taxのサイトで様式に入力し、手元のプリンタで印刷したものを提出しています。それ以前は、税務署から送られてきたカーボン複写式の所定の用紙に手書きで記入していました。そのときには電卓が必要でしたが、e-Taxのサイトでは自動的に計算されますので記入は楽になりました。表計算のようなもので、よくできていると思います。私は入力して印刷するためにe-Taxサイトを使っています。しかし、e-Taxの目標は「電子申請」、つまり、申告内容を印刷しないで、内容をネットワークを通じて提出するということだということです。

今年は、税務署からカーボン式の用紙は送られてこなかったのですが、代わりに、電子申請の勧めが届きました。電子申請のためには、区役所で住基カードに個人認証のIDを入れてもらい、さらにそのカードの読み取り器を購入する手間と費用がかかります。電子申請をすれば、その代償として1回に限り、所得税から5,000円減額するという案内でした。しかし、このように手間暇かけて申請書を電子的に送っても、源泉徴収票や領収書などの添付書類は相変わらず現物を届けなくてはいけないのです。どうしてこのような制度を推進しようとするのか理解できません。源泉徴収票などにすでにIDが振られていて、申請書に記入すればよいという状況ならば分かります。今のような中途半端なことで普及させようというのはいったいどういうことでしょう。

「電子申請」というのはいかにも先端的で見栄えのする制度のように聞こえます。しかし、現状では、環境条件が整っていません。私のように、e-Taxサイトのシステムで様式に記入して、それを印刷したものが提出されると、税務署ではその内容を(OCRを使うなどして)入力しなくてはなりません。その技術は成熟していますので手はかからないでしょうが、それでも数字以外の情報には今なお簡単ではないでしょう。現実的な対応はつぎのようなものではないでしょうか。様式はあくまでも人が見るためのものとして印刷できる形をとっているわけですが、ついでに、必要な情報を(たとえば、バーコードのように)符号化して、正確を期するためにサムチェックをつけたものを印刷して、申請書の本体に添えて提出するようにすれば、必要な情報の入力の精度を高めることができるでしょう。つねに「最先端」の技術が定着するわけではないことは、われわれはすでに学習したではありませんか。

このように、行政における情報システムが、利用者のために、また行政の効率化等のために効果を上げているかどうか、また、情報システムの導入と運用にあたって、費用対効果が見合ったものであるかどうか、さらに、制度やシステムに対する信頼を確保できるかどうかということを「情報システムの合理性」ということばで示すというのはどうでしょうか。「情報技術」が行政の目玉となったのは大昔のことです。社会のニーズを十分に把握して情報技術による合理的な情報システムの設計を行うための仕組みを検討すべきでしょう。

昨年の3月まで2年ほど、大学で産学連携の「サービスイノベーション研究会」のお世話をしながら、いろいろなことを勉強しました。委員長としてまとめた提言書は

http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/service-innovation/index.html

にあります。そこでは、経済活動だけではなく、公共サービスへの科学的視点が重要であると考え、その提言も行っています。情報社会における自らの経験が大事だと実感しました。

情報システムが合理的であることは企業活動ではあたりまえでしょうが、行政システムではそうではないというのが残念です。「競争がないからだ」ということも知れませんが、それだからこそ、社会が指摘できなくてはいけないといえましょう。

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