日本学術会議の効率的な業務改革への取組みについて

日本学術会議に対して、菅内閣総理大臣は第25期会員の任命拒否の理由を明確にせず、一方で河野太郎行政改革担当相は2020年10月9 日に行政改革の検討対象として「二百十人の学術会議の会員数や手当には踏み込まず、国から支出される年間十億円の予算や会議事務局の約五十人の定員を見直す。」との考えを示した。

会議事務局は会長をはじめとする幹部会員とともに種々の学術活動を支えている。会員は多数の審議や科学者コミュニティーとの連携、政府や社会及び国民等との連携、国際アカデミーとの連携等々、種々の活動を行うことが任務であるが、210名の会員は非常勤の特別職の国家公務員、約2000名の連携会員は非常勤の一般職の国家公務員である。つまり、会長以下、全員が非常勤であり大多数が大学や企業に本務を持っている。こうした会員等の活動を支える事務局は政府の省庁の行政とは異なる側面があるといえよう。

10数年前の会員当時には関係会員と事務局職員が共同で会員業務の改革に努めた。学術会議の構成員である会員等と事務局の協働作業であった。学術会議での主要な業務は「ハンコ押し」ではない。業務の改善にあたってはその内容に通じた当事者が積極的に関与しなければ不可能である。当事者としてその一端を紹介する。

  1. 会員選考事務の改善:2005年に制度改革によって新生日本学術会議第20期が発足した。このときの会員は特例によって学術会議とは別に組織された選考のための委員会によって選出された。2008年に定例の3年の期ごとの「半数改選」が初めて行われたが、このときは候補者の推薦は紙面による提出であった。次の期の2011年の改選にあたっては、「電子化」による会員候補者の推薦を行うこととした。この方式はそれ以降、3年ごとに行われていて4000件以上の推薦書の提出、および審議のための処理が電子的に行われている。
  2. 会員・連携会員の意見交換のための掲示板:2011年の東日本大震災の際には学術会議においても対応のための数回の緊急集会が開かれた。その際に、出席がままならない会員等への連絡や意見交換のために会員有志によって臨時の掲示板を用意した。これをもとに、2012年10月には SCJ Member Forum を開設した。
  3. ビデオ会議:2012年12月21日の幹事会により、日本学術会議会議室以外から Skype 等を利用して会議に参加できるようにした。本務を有する会員等には勤務先からの移動に伴う時間的制約等、たとえ東京であっても会議への出席ができない状況を改善したといえる。また、会議出席のための旅費の節減にも寄与しているといえよう。
  4. メール審議:2013年9月の幹事会により、一定の議題に関しては、日本学術会議会議室に参集して議決を行う代わりに SCJ Member Forum の掲示板における意見交換・質疑を経て、メールによる議決を可能として、迅速な審議を行うことができるようにした。

これらは、いずれも今となっては一般的だといえようが、これらを10年ほど前に公式な手続きとともに実施した。2014年に会員を退任したのでその後の進展については承知していないが、不断に会員と事務局が効率的な会務を行っていると思われる。

これらが COVID-19 下での審議の対策として活かされ、多くの提言等がまとめられ活動を停止することなく第24期を終えた。10月1日に新たな第25期が始まり、さらなる活動が期待される。そのためにも、任命拒否された6名の会員候補者がただちに会員として任命されることを望む。

日本学術会議の会員と事務局とのこのような取組みも広く理解いただきたい。

日本学術会議の「総合的・俯瞰的」活動のために6名の会員任命を

2020年10月1日の日本学術会議第25期会員の任命にあたって、菅総理大臣は6名の科学者を除外した。その理由は一向に説明されないが、加藤官房長官他から、「総合的・俯瞰的」ということばが多く出てきた。おそらく、誰かがこれまでの日本学術会議に関して議論された文書から引いてきたのであろう。

菅氏は理由なき任命拒否を撤回して6名の科学者の会員を任命すべきである。

日本学術会議の制度改革にかかる2003年の報告書、およびその報告書にある「10年後の見直し」にかかる2015年の内閣府有識者会議の報告書における記述は以下の青字部分のように書かれている。

「日本学術会議の在り方について」(2003/02/26)
総合科学技術会議

I はじめに
・・・
(p.1)
2.本意見の骨子
○今日、日本学術会議は我が国の科学者コミュニティを代表する組織として、社会とのコミュニケーションを図りつつ、科学者の知見を集約し、長期的、総合的、国際的観点から行政や社会への提言を行うことが求められている。
○このような役割を充分果たすためには、まず、会員制度、部門等の構成、運営体制等の改革を早急に行うことにより、科学者コミュニティの総体を代表して俯瞰的な観点に立ち科学の進展や社会的要請に対応して柔軟かつ機動的に活動しうる体制に変革しなければならない。
・・・
II 科学者コミュニティの果たすべき役割
・・・
(p.4)
2.組織について
日本学術会議は、新しい学術研究の動向に柔軟に対応し、また、科学の観点から今日の社会的課題の解決に向けて提言したり社会とのコミュニケーション活動を行うことが期待されていることに応えるため、総合的、俯瞰的な観点から活動することが求められている。

ここでは、「日本学術会議が総合的・俯瞰的観点から活動する」としていて、科学者個人の研究に触れているわけではない。

「日本学術会議の今後の展望について」(2015/03/20)
内閣府 日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議

2.日本学術会議の組織としての在り方
(1)意識、活動へのコミット
② 求められる人材と選出方法
・・・
(p.24)
【有識者会議としての意見】
第2で述べた日本学術会議に期待される機能を踏まえると、その会員・連携会員は、自らの専門分野において優れた成果を上げていることに留まらず、様々な課題に対し、自らの専門分野の枠にとらわれない俯瞰的な視点を持って向き合うことのできる人材であることが望ましい。・・・

政府による説明はここにある「俯瞰的な視点」を引用したのか?しかし、ここでは「総合的」が一緒に出てきているわけではない。2003年のものと2015年のものをごっちゃにしてあいまいな表現にしたとも考えられよう。それにしても、重要なのは、「自らの専門分野において優れた成果を上げていることに留まらず」が前提である。その判断はそれぞれの専門分野の科学者しか判断できない。各分野の専門家によって「優れた成果を上げている」と判断されて日本学術会議から推薦された6名の科学者のをただちに任命すべきである。

Technical Report – BCDS Agent: An Architecture for Bidirectional Collaborative Data Sharing, Masato Takeichi. March 31, 2020.

Abstract.

We have been discussing data sharing among autonomous independent sites in the distributed system to meet various demands for application. Among them the need for collaborative data sharing has attracted attention in many fields where not only the owner of the original data but the receiver can update that shared data. The BCDS Agent is a new building unit for configuring such systems with scalability and versatility. It rests on the novel feature of bidirectional programming which encourages us to take the compositional approach in developing the distributed system with data consistency.
We present the key issue on designing the BCDS Agent with some examples.

TR-BCDS Agent

Published version (August 2021) available at

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssst/38/3/38_3_41/_pdf

双方向変換を用いたデータ共有システムについて

まったく久しぶりの投稿です。

すでに触れましたが、2018年3月に大学改革支援・学位授与機構の職を離れて、再び、大学に勤めていたときの計算機科学分野の研究を振り返りつつリハビリに努めてきました。

7年間の「空白」もありましたが、やり残していたことも思い出しながら関数プログラミングを楽しんでいます。2018年の秋から「双方向変換を用いたデータ共有システム」に関する研究に取り組んでいます。

情報学研究所 (NII) の胡振江教授(現北京大学・NII教授)が代表として進めている科学研究費補助金による研究のアドバイザを務める傍ら、久しぶりのソフトウェア開発を行って、アイデアの実証を行っています。

2019年の3月頃から3ヶ月ほどで開発して、いくつかの応用システムのプロトタイプによって有効性を実証した「双方向協調型データ共有 (Bidirectional Collaborative Data Sharing, BCDS) システム」の概要を添付しておきます。このシステムはネットワーク通信を含めてすべて関数型言語 Haskell で記述してあります。SQLデータベースとともに使うことを想定したシステムですが、そのためのライブラリ 700行とネットワーク機能を含むデータ共有を実現する800行程度のプログラムで、Mac OS と Windows 10 のもとの(これらが混在した)ローカルネットワークで実行することができます。

最近、いくつかのタクシーの配車サービス(Taxi Dispatching) システムが実用化されていますが、簡単な仕様記述によってそのプロトタイプを作成するなどの実験を行いました。協調型データ共有のアプリケーション構築のための基盤技術の一つとして位置づけています。

BCDS概要

最近の大学における「質保証」について

昨年(2018年)の3月まで、7年間、大学の質保証の業務に関わっていましたが、それ以降、1年3ヶ月ほどはまったく関わっておりません。以前に大学にいた頃のComputer Scienceの研究に戻って、その間の研究の進展をフォローしながら10年ほど前に考えていたことを継続してプログラミングを楽しんでいます。

その一方で、ときにはいろいろと報道される最近の大学の状況について考えるところもあり、以前の業務を通じて知った質保証を担う当事者としての大学、および学生、教員、職員の方々へのさまざまな思いが出てくることもあります。

最近、話題になる大学の問題の多くは組織のあり方に関するものが多いと言えるでしょう。「改革」の名の下に実施される施策が必ずしも正鵠を得ていないことも、また、それを指摘することが躊躇われるということもあるのではないでしょうか。

いまでも「平成27年度大学質保証フォーラム−知の質とは – アカデミック・インテグリティの視点から」を企画し開催したときのことを思い起こします。なにより、大学にとっては、「改革」、「評価」といった対処に追われるだけではなく、学生、教員、職員のそれぞれが「アカデミック・インテグリティ」を真摯に追究すべきであろうと思います。これに加えて、「非寛容の排除」も大事だといえるでしょう。以前から話題になっている「研究不正」については、多くは教員によるインテグリティの欠如によるものですが、それでもやはり組織としてのインテグリティが欠けているといわざるを得ません。「不適切な入試」にまつわることがらもおなじでしょう。「制度改革」も必要でしょうが、それが当座の問題を見えなくするための形ばかりのものになってしまわないことを願っています。

「質保証」ということばには広い意味がありますが、その基礎にあるものをもう一度、考えてみることも大事でしょう。

久しぶりの投稿です。

24年前の著書の中の参照情報について

先日、24年前に出版した書籍について、出版社(岩波書店)から、その中に記載した参照情報について「読者からの問合せ」があったという連絡がありました。

その参照情報は、インターネット上から得るソフトウェアに関するものです。現在も(よりいっそう)インターネット上で公開されている参照情報の引用も多くなっていますので、今後に向けて考えることも必要でしょう。

その書籍というのは

  • 武市正人著「プログラミング言語」(岩波講座 ソフトウェア科学  4)
  • 1994年6月17日
  • ISBN4-00-010344-X C3355

です。

いまや多彩な「プログラミング言語」が存在しますが、執筆当時もそうでした。この本は特定のプログラミング言語について述べたものではなく、さまざまなプログラミング言語に見られる共通の概念を「プログラミング」によって示そうと試みたものです。すなわち、「プログラミング言語をプログラムする」(Programming Programming Languages)ことで「プログラミング言語」の基本を理解することを目指しています。その内容については「古典的」だといえるでしょう。この考え方をここで詳しく述べることはせずに、関心のある方には本書を見ていただくとして、ここでは、この本の読者の方から問合せのあったことについて書くことにします。

本書では、「・・・をプログラミングする」というのですから、当然、そのためのプログラミング言語を使っています。執筆当時にはGoferという関数型言語が一般的でした。また、その処理系が無償で配布されていて読者の方々にも使っていただけると考えてGoferを使いました。当時(から何度かの増刷の間)は、このGoferはYale大学のサイトで提供されていました。本書のpp.220-221には、参考書リストの末尾に「ソフトウェアの入手方法」を載せてあります。今とは違って、ftpによってアクセスしていたようで、そのアクセス法(と標準的なレスポンス)を書いてあります。

ところが、今はそのサイトにはアクセスできなくなっています。現在、関数プログラミングに携わっている方々でもGoferという名前を聞いたことがないかも知れません。実際、半年ほど前に、私自身が著書の中のプログラムを掘り起こして使おうとしたときには、Goferではなく新しい言語に書き直しました。24年前(の出版時よりも数年前)に使った言語から、今、使っている言語への(少しの)書き換えでしたが、昔、自分で書いたものですし、著書に説明も書いたのですからそれほど手間はかかりませんでした。

さて、現在、この本で使っているソフトウェアから現在のソフトウェアに移行するのはどうすればよいのでしょうか。Goferだけではありませんが、このような(Goferだけではなく類似の)言語の発展として、いまはHaskellが一般的だといえるでしょう。読者の方々にもこの情報を提供したいと考えてこの記事を認めています。実際、現時点でそのような環境を整えるには、インターネットで「Haskell インストール」で検索すれば多くの情報が得られるでしょう。大別すれば、Windows OS向けとMac OS向けでしょうか。手元のOSに合ったシステムを導入していただきたいと思います。具体的な手順については、それぞれの説明を参照していただくのがよいでしょう。

さて、24年前の本書に現れるGoferプログラムのコード(テキスト)についても、当時、安定的に提供できると考えていた著者の所属先サイトを示していました。7年ほど前にそこを辞した後、そのサイトも閉鎖されていますので、その対応も必要でしょう。上述のように、GoferプログラムがそのままHaskellで処理できるわけではなく、少し、手を入れる必要がありますが、それでもなお、もとのテキストがあるとないでは大違いでしょう。そこで、ひとまず、ここに掲載することにしました。

「プログラミング言語」の中のプログラム一式

zipファイルですが、ダウンロード後に解凍することによって各章のファイルが得られます。拡張子GSのついたファイルがGoferのプログラムで、拡張子LOGのファイルはGoferの処理系での実行結果です。さらに、GPという拡張子の付いたファイルでは、いくつかのGoferプログラムからなるプログラムの場合に関連するGoferのファイルを列挙したものです。活用いただければ幸いです。

大学における教育研究の質保証について – 設置審査・内部質保証・認証評価

昨年(2017年)の夏から秋にかけて、ある大学(学部)の「設置審査」が話題になって新聞やテレビでも報道されたので、大学関係の方々以外にも「大学(学部)の設置にあたっては文科省の審査がある」ことが共有されたといえるでしょう。

しかしながら、こうした報道の場面では、大学設置審査で認められた大学のその後の教育研究の状況がどのようにチェックされるのか、といったことはほとんど触れられません。それだけでなく、実際、大学の一般の教職員の方々も(もちろん、大学にもよりますが)普段は気にかけることは少ないようです。

設置審査の申請にあたっては、大学や学部・研究科等の設置目的や教育課程の内容、および教員の教育研究業績と担当講義との対応など、組織と個人の詳細な情報を整える必要がありますので、関係者は相当の経験をすることになります。しかし、設置された後のこととなると、設置時の関係者はともかく、その後に着任された方々が積極的な関心をもつことは少ないのかも知れません。むしろ、関心をもたずに研究や教育に携わることができると言った方がよいのかも知れません。多くの大学(学部等)はすでに設置されているわけですから、そこでの教育研究の状況をどのように把握すればよいのか、といった疑問も出てくることでしょう。

最近、大学に問われている大きな課題の一つは、「教育研究の質をどのように保証するのか」ということです。高等教育の政策的な提言等があるたびに「質保証」といったことばで声高に唱えられます。教育研究の「質」ということ自体、議論のあるところではありますが、大学設置の際には大学が申請した目的に照らして一定の「質」を確保できると判断して設置が認可されたのですから、大学が約束したとおりに教育研究が継続的に行われていることを保証することが「(最低限の)質保証」だといえます。

こうした質保証の仕組みは、じつは、制度的にはすでに整えられているのです。もちろん、これで十分ではないといってしまえばそれまでなのですが、それにしても、「大学における教育研究の質保証の全体像」は大学界でも一般社会でも、もう少し共有する必要があるといえるでしょう。一言で言えば、

文部科学省と大学と認証評価機関が連携して教育研究活動の質を保証する

ということです。それぞれの機関が

設置審査と自己評価・点検・改善と認証評価を担う

という役割分担を行っているといえます。

 

我が国では大学の役割及び目的に適う教育の質を保証するために以下の制度が設けられています。

  • 設置認可制度(学校教育法第4条)
  • 認証評価制度(学校教育法第109条第2項)

認証評価制度は2003年の学校教育法の改正により2004年4月に導入されました。この改正を機に、大学の施設設備や教員年齢などについての詳細を規定していた「内規」が廃止され、大学の設置は以前よりも緩和された大学設置基準等の法令に基づいて認可されることとなりました。また、大学が既に授与している学位の種類及び分野を変更しない範囲での新たな学部や学科などの設置については、審査を経ない「届出」で処理されることになりました。一方で、このような設置認可制度の変更に伴い、設置後の大学の教育の質の保証は、原則として大学自らの「自己点検・評価」と「認証評価機関による認証評価」によることになりました。

このように、大学教育の質保証については、制度的には「(緩和された)設置審査による事前規制」と「(新たに導入された)認証評価制度による事後チェック」によることになりましたが、そこでは大学自らの「自己点検・評価」が行われることが前提となっています。

我が国ではこのような制度によって大学教育の質を保証していますが、諸外国でも一般に、大学自らが行う(自己点検・評価を含む)質の改善に向けた組織的な活動を「内部質保証」と呼び、大学の外部からの第三者による「外部質保証」に対比させています。我が国の設置審査や認証評価は外部質保証だといえます。

大学は、このように、第三者の評価を受けながら「質保証」を行っていることを社会にも知らせる必要があるといえるでしょう。もちろん、自らが実施する「内部質保証」によって、よりよい教育研究活動ができるように改善に努めていることも示すこともあるでしょう。これらの「質保証」は個々の学生が身につけた成果を保証するものではありません。しかし、教育の体制等を確認して、個々の学生が学修するための最低限の条件を満たすことを保証しているわけです。さらに、大学の取組としてさらなる向上を目指しているということになります。このような状況を社会でも共有するのが望まれます。

 

 

教育研究活動の質保証に携わって

久しぶりの投稿です。

2018年3月末に大学改革支援・学位授与機構(NIAD-QE)を退職しました。2年前に大学評価・学位授与機構(NIAD-UE)から改組されましたが、その前から7年間、勤めました。そのうちの6年間は研究開発部長を務め、調査研究の統括と教職協働による事業推進にあたりました。最近のことばでは、「教育研究活動の質保証」に携わったということでしょうか。

この独立行政法人に勤めるまでには、39年間、大学に在職しました。専攻はComputer Science (計算機科学)で、とくにソフトウェア構成論や関数プログラミングに関す研究を行いましたが、この数年間はこの分野の研究には手が回らなかった(というよりも、特定の分野によらない仕事に就いていた)といえます。以前には研究面での話題も記事に書いたことがありますが、これからも少しずつ(研究面でのリハビリをしながら)書いてみたいと思います。

さて、NIAD-UE 、NIAD-QEの7年間を振り返ってみますと、大学とは異なる視点を身につけたという感じがしています。大学にいた頃から、日本学術会議会員を務めたり、NIAD-UEの客員教授も務めていましたので、NIAD-UEに着任して学術分野によらない大学評価や学位審査などの業務を推進することも、私にとっては以前からの継続的な活動であったといえます。しかしながら、学術界や大学等、高等教育全般に関わっていたとはいえ、教育研究の質保証に関わる調査研究やそれをもとにした教職協働による事業実施にあたることは刺激的で楽しいことでした。大学の頃には得られなかった多くのことを学びつつ、独法としての事業に携わった経験は私にとって貴重なものでした。

この経験をもとに、大学をはじめとする高等教育における「教育研究活動の質保証」について、大学界だけではなく社会一般にもお伝えした方がよいと感じたことがらについて、いくつかの記事を書くつもりです。

「知の質とは —アカデミック・インテグリティの視点から—」大学質保証フォーラムの開催について

アカデミック・インテグリティ(の一端)については、これまでにもこのBlogに書いたことがあります。2年ほど前に研究不正について議論が行われ始めたときにさらにその前2年半ほど前のことを回顧しながら考えを書きました。

科学者倫理に思うこと

Academic Integrity と Research Integrity

など、さらにはそれ以降の記事の多くも、これに関係する話題が多かったと思います。 Continue reading →

「東大が軍事研究解禁・・・」の報道について

2015年1月16日産経新聞朝刊の第一面に掲載された記事に驚きました。sankei.comのオンラインニュースにも出ています。そこには、

 東大は昭和34年、42年の評議会で「軍事研究はもちろん、軍事研究として疑われるものも行わない」方針を確認し、全学部で軍事研究を禁じた。さらに東大と東大職員組合が44年、軍事研究と軍からの援助禁止で合意するなど軍事忌避の体質が続いてきた。

ところが、昨年12月に大学院の情報理工学系研究科のガイドラインを改訂し、「軍事・平和利用の両義性を深く意識し、研究を進める」と明記。軍民両用(デュアルユース)技術研究を容認した。ただ、「成果が非公開となる機密性の高い軍事研究は行わない」と歯止めもかけた。以前は「一切の例外なく、軍事研究を禁止する」としていた。

とあります。

情報理工学系研究科に4年近く前まで在籍した者にとってはまったく意外なことでした。2004年の国立大学法人化のときに研究科長を3年間務め、法人化に伴う国立大学の変化も見た者が、4年前に離れてその後は足を踏み入れないできた組織で何が起こっているのかと関心を持たざるを得ません。

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