日本学術会議の「総合的・俯瞰的」活動のために6名の会員任命を

2020年10月1日の日本学術会議第25期会員の任命にあたって、菅総理大臣は6名の科学者を除外した。その理由は一向に説明されないが、加藤官房長官他から、「総合的・俯瞰的」ということばが多く出てきた。おそらく、誰かがこれまでの日本学術会議に関して議論された文書から引いてきたのであろう。

菅氏は理由なき任命拒否を撤回して6名の科学者の会員を任命すべきである。

日本学術会議の制度改革にかかる2003年の報告書、およびその報告書にある「10年後の見直し」にかかる2015年の内閣府有識者会議の報告書における記述は以下の青字部分のように書かれている。

「日本学術会議の在り方について」(2003/02/26)
総合科学技術会議

I はじめに
・・・
(p.1)
2.本意見の骨子
○今日、日本学術会議は我が国の科学者コミュニティを代表する組織として、社会とのコミュニケーションを図りつつ、科学者の知見を集約し、長期的、総合的、国際的観点から行政や社会への提言を行うことが求められている。
○このような役割を充分果たすためには、まず、会員制度、部門等の構成、運営体制等の改革を早急に行うことにより、科学者コミュニティの総体を代表して俯瞰的な観点に立ち科学の進展や社会的要請に対応して柔軟かつ機動的に活動しうる体制に変革しなければならない。
・・・
II 科学者コミュニティの果たすべき役割
・・・
(p.4)
2.組織について
日本学術会議は、新しい学術研究の動向に柔軟に対応し、また、科学の観点から今日の社会的課題の解決に向けて提言したり社会とのコミュニケーション活動を行うことが期待されていることに応えるため、総合的、俯瞰的な観点から活動することが求められている。

ここでは、「日本学術会議が総合的・俯瞰的観点から活動する」としていて、科学者個人の研究に触れているわけではない。

「日本学術会議の今後の展望について」(2015/03/20)
内閣府 日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議

2.日本学術会議の組織としての在り方
(1)意識、活動へのコミット
② 求められる人材と選出方法
・・・
(p.24)
【有識者会議としての意見】
第2で述べた日本学術会議に期待される機能を踏まえると、その会員・連携会員は、自らの専門分野において優れた成果を上げていることに留まらず、様々な課題に対し、自らの専門分野の枠にとらわれない俯瞰的な視点を持って向き合うことのできる人材であることが望ましい。・・・

政府による説明はここにある「俯瞰的な視点」を引用したのか?しかし、ここでは「総合的」が一緒に出てきているわけではない。2003年のものと2015年のものをごっちゃにしてあいまいな表現にしたとも考えられよう。それにしても、重要なのは、「自らの専門分野において優れた成果を上げていることに留まらず」が前提である。その判断はそれぞれの専門分野の科学者しか判断できない。各分野の専門家によって「優れた成果を上げている」と判断されて日本学術会議から推薦された6名の科学者のをただちに任命すべきである。

2 replies on “日本学術会議の「総合的・俯瞰的」活動のために6名の会員任命を”

  1. 武市先生ご無沙汰しております。
    日本学術会議第25期会員の任命拒否問題に関するご意見拝読致しました。学術界に身を置くわけではありませんが、一市民として全く同感です。
    日本学術会議には、情報学の参照基準制定の際に説明会等でお話を伺ったことがあります。まさに俯瞰的な観点に立つ活動であったと思います。総合的・俯瞰的とはこのように学術会議全体の観点を指す言葉であり、会員一人一人の任命可否とは全く関係がないと考えます。
    時の政権のこのような非論理的な応対を容認していますと、結局議論を深めることが少なくなり、自由で民主的な社会を危うくしかねないと危惧します。日本学術会議には、今後とも科学という論理的な議論を重視する立場を貫いて提言して欲しいと思います。

    • お久しぶりです。
      おっしゃるとおりです。
      それにしても、最近は菅氏は「総合的・俯瞰的に判断した」というのですから、ここに書いたこととは次元が違う話のようです。
      私自身、2014年に会員を退任してからは、ときに学術会議のことを問われることもありました。
      しかし、内閣府の有識者会議の報告書が2015年3月20日に出てからはほとんど離れていました。
      2005年の制度改革から「10年後を目処に見直す」ことになっていたので、有識者会議はその対応だったのですが、2005年〜の9年間の会員から見てその報告書には違和感があったからということもあります。
      しかし、今回の任命拒否やそれをきっかけにした「見直し」というのはそれとはまったく違う話です。元会員としていくらかでも参考になればと思い、記事を書きました。
      学術会議に直接は関係がない方にも関心を持っていただけるのはありがたいことだと思います。

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