Daily Archives: 2010-02-16

並列性忘却プログラミング

最近、「並列性忘却プログラミング」に関心をもっています。「並列性忘却」は”Parallelism-Oblivious”の和訳で、「並列性を意識しないでよい」ということを表しています。「脱並列性」というのもいいかも知れません。

「最近」といっても、実は、2007年7月26日〜27日に Parallelism-Oblivious Programming (POP) のワークショップを開催したので、その頃から考えていたことです。ワークショップについては

http://www.ipl.t.u-tokyo.ac.jp/~kmatsu/pop07/index-j.html

にプログラムがあります。そのときの発表スライドは

http://www.ipl.t.u-tokyo.ac.jp/~takeichi/attachments/POP.pdf

です。

「並列」(parallel) は1カ所にしか現れていませんが、もちろん(?)、「並列性忘却並列プログラミング」(Parallelism-Oblivious Parallel Programming)、すなわち、「並列性を意識しないで並列プログラムを開発する」方法を追究しようというものです。POPよりもPOPP とするほうがよいのかも知れません。

1970年代には構造化プログラミング (structured programming) の議論がありました。いろいろな側面がありましたが、その中で、「同じ処理を記述するにしても、行儀のよい書き方をしよう」という教えも説かれました。プログラムの書き手によってその作風がまちまちだと、分かりにくいプログラムはそれが正しいかどうかも確認できないし、他人には理解できないのは問題だ、ということでした。プログラミングのよい「スタイル」を考えようということでした。

最近の並列プログラミングの世界はどうでしょうか?最新の並列計算機のアーキテクチャが頻繁に変わるということもあり、また、性能を最大限に活かすようにプログラムをチューニングしようということもあってか、細部にわたって並列制御のコードを書き込むということが多いようです。並列プログラミングに望ましい「スタイル」というものを見つけ出すことはできないのでしょうか。そのような疑問の中から出てきたものが並列性忘却のアイデアです。

私の所属している研究科では、教員の研究をわかりやすく伝えるために、科学記者の方によるインタビュー記事をホームページに掲載しています。最近、掲載されたものが

http://www.i.u-tokyo.ac.jp/news/focus/100215_1.shtml

にあります。こちらもお読み下さい。

学術会議に関する朝日新聞社説について

学術会議会員として、朝日新聞の社説(2010/02/15)「今こそ社会の知恵袋に」に考えさせられるところがありました。

http://www.asahi.com/paper/editorial20100215.html

http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/d5fd634c65e0089cdb4591d8ff136c65

学術界から社会が直面する問題に積極的に発信することが大事であるという社説の主張はもっともなことですが、そこで取り上げられている事例はいずれも短期的に解決が求められている「社会問題」といえるでしょう。

学術会議では、現在、「日本の展望」として学術界からの提言をまとめています。私も、テーマ別に検討を行う「情報社会分科会」の委員長として、「安全で安心できる持続的な情報社会に向けて」をとりまとめたところです。そこでは、わが国の社会の現状を分析して課題を明確にし、それに向けた方策を提言しています。このような提言を行うにあたって、1年半の審議を行いました。さらに、現在、査読意見をもとに改訂した提言(の最終版)を公表するための審議を行うところで、提言書は4月に公表される見込みです。

学術会議が短期的に解決が求められる課題に対して即効性のある解決策を提言するには難しい面があるといえます。会員210名は全員が非常勤公務員として任命されています。そこで、特定の課題のための会議が開催されるときに集まって審議するということになります。本務の職務との関係で出席できないこともありますので、審議が遅れがちになってしまいます。もっとも、議論の内容が決まっている場合には、各委員が検討してメール等で意見の交換を行うこともありますが、それでもこのような手段では「同時に議論する」ことによる密度の高い議論には及びません。

学術会議の会員210名と連携会員約2000名は国内各地に在住しています。それぞれの本務で多忙な日常の中で、社会が直面する問題に迅速に対応するために、頻繁にまる一日をかけて東京に出張してくることは難しいでしょう。学術会議には「IT環境整備推進委員会」が設置され、私が委員長を務めています。そこでは、ビデオ会議等の活用の可能性も検討しています。その検討自体が標準的な審議スケジュールになっているという感が拭えませんが、会員の中からも要望が強いことですので、できるだけ早い時期に実施できるようにしたいと考えています。

学術会議の会員の「社会が直面する問題に対する積極的な取り組み」への意識は高いと思います。それを組織的な活動に移すことができるように、ITの活用を含めた議論、審議の体制、あるいは基盤整備を進めることも大事だといえるでしょう。